街のはじにつき、下を仰ぎみるとそこには
ぼろぼろの船が空に浮かんでいました。

ベルとアンリはぴょんと船に飛び乗り、
イアンはまたユキを担いで下に飛び降りました。
ぼろぼろの船でしたが、4人が飛び乗っても
傾いたり、壊れたりすることはなく
意外とつくりはしっかりしているようです。


船があるということは行き先がある
ということですが、夜の闇が深すぎて
あまり遠くの方は見えませんでした。
そして、船をこぐための道具もあるわけではなく
乗ったはいいものの、さっそく途方にくれることと
なってしまいました。
ひとりを除いて。

「大丈夫、なんとかなるだろうさ」

アンリは船の一番後ろに陣取って、
ゆったりとかまえていました。
その顔は、いいかげんに考えているわけではなさそうです。

ユキのふしぎがる視線に気づいたのでしょう、
ややめんどうくさそうにアンリは続けました。


「勝手につれていくだろうさ、この船が」


「そうかしら」


きれいな女の人が、この先大変なことがあると
言ったのをユキは忘れていませんでした。
それが、このことだとすると
ユキ達は達は頭を使ってこの船を動かさないといけない、
そう、ユキは考えていたのです。


しかし、アンリはにたりと意地悪く笑って
「そうだ」とこたえます。

「これから何か試されるのさ、でも今じゃない」


「こんなぬるいものじゃないはずだからね」


そうアンリが言うなり、船がふわりと動き始めました。
うれしいことのはずなのに、なぜかアンリの言葉が
ユキの頭にのこり、思わずアンリを見つめてしまいます。
アンリは不安そうにしているユキに追い打ちをかけるように
言葉をつづけます。

「どうしようもなくなって、何かを失いそうになる、」

「逃げだしたいけど、できない。それが試されるってことなんだよ」


ユキが言葉をつまらせると、危なっかしくも船の壊れた部分に
腰かけているイアンがほがらかに笑ってアンリに答えます。

「だいじょうぶだよ、だって4人いるもの」

「一人が逃げ出したくなるなら、ほかの人がささえればいいんだよ」


「ね?そうでしょ、ユキ」


思いがけない言葉にユキは面くらって、返せないでいると
船の先頭にいたベルがふふっと笑いました。


「イアン、ユキのまねっ子」


イアンは真っ赤になり、ようやくここでユキも「そうね」と苦笑して返します。
アンリは何を言うでもなく、ただその様子を見て「悪くないね、どうも」と
自分の心の中だけでつぶやきました。


船はゆらゆらと子ども達の笑い声をつれて
風がよぶ方へ進んで行きました。



2011.09.11