これから、生まれにいく



そのためにはこの街のはしっこまで行かないといけない。
そう言い残して、何やら用事があるらしいきれいな女性は
どこかに消えてゆきました。



その口ぶりから、表情から、また会うんだろうなと思って
ユキは寝ているベルを背負い、とりあえず
街のはじを目指します。




「なんで、背負ってるんだい?」





どこからともなく、面白そうに言う声が聞こえて
あたりを見回すと、その姿はすぐに見つかりました。
あまりに、この街から浮いている少年。



茶色い肌に、泡立つように生える黒髪、
強気そうで、でもどこかとらえどころのない笑みをうかべる少年は
こわれた家に座って、こちらをじいっと見つめています。



「なんで、って、ベルが寝ているから」




「オレには、どうみても起きているようだけど?」




あわててユキが後ろをのぞきこむと、
まったく悪びれのない蒼い瞳がこちらを見返しています。


「ばれた?」



「・・・・・・まあ、元気ならいいんだけどね」



「怒らないのね!わたし、あなた大好きだわ!」




そのやりとりと見た少年は、あははははと
はじけるようにして、笑い、その拍子に壊れた家の向こう側へ
ころげおちてしまいました。
いてっ という声が聞こえたきり、壁の向こう側から何の音も聞こえず
白い街の静けさがあたりを包みました。



頭をぽんぽんと叩くベルに応じて、心配になったユキは
少年のいる方へ足をすすめました。
そろそろ少年のいるところにつきそうだというところで、
壁の向こう側から勢いよく少年が出てきました。
その顔は、はれやかです。




「きめた、お前らといっしょに行く」




「・・・・どこに行くのか知っているの?」




ユキの言葉を聞いて、少年は首をかしげます。
そういえば考えていなかったという風でした。
ユキは呆れたようにため息をつきました。
ユキの言いたいところは分かったのか、それでも少年は
はれやかに言いました。




「大事なのは、誰と行くかだろ?場所はどこだっていい」




「すてき!わたし、アンリも大好きだわ!」




ユキにおぶわれたまま、ベルは鈴のように笑います。
ただ、少年とユキは少し不思議がって、
「アンリ」という言葉について少し考えこみ、


ユキの方は、
きれいな女の人が言っていた、一緒に旅をする子の名前だと
思い当たり、

少年の方は
たぶんオレのことなんだろうなとすぐに思い当たりましたが
ごろの良さについて考え、




「まあ、悪くない」



名前も、この子たちと旅をすることも。

そう思って、笑いかけたのでした。





2011.07.03