目がさめると、そこは白い街の中でした。
かがやくように白く、そしてみどりの石ただみが宝石のように光る街は
とてもきれいでしたが、人っ子ひとりいませんでした。
人が住んでいないのは、おそらく人が住めないほど
街のあちこちがこわれているにほかなりませんでした。
きっと、人がいたころはにぎやかで美しい街だったんだろう、
頭の回転がはやい少女はそう思ったのでした。
闇のような黒い髪をもつ少女は、この白い世界で目がさめてから
手も足もこの夜の色とそのおそろしさも白のきれいさも
分かったような気がしていたのです。
これからどうしようか、少女は冷静に考え始めたころです。
「こんにちわ、ユキ」
街の向こうから
白のまばゆさに負けないほど、きらめいている女の人がやってきます。
その女の人が一歩足をすすめるたび、街が、世界がきらきらとかがやいて
花のようなかぐわしい香りがユキのもとまでやってきました。
まっすぐ見るのもためらわれるほど、美しいその人は、
黄色というより光みたいにきらめく長い髪をなびかせて
ユキを見つめる瞳と肩にはおっている上着は空色
くちびると腰に結う帯はさくら色
それだけでなく
髪にも体にも色とりどりの花でかざっていました。
それでいて派手ではなく
すべてが彼女をひきたたせるためだけにあるようで
しかもそれがこちらをいやに思わせないほど
「やさしさ」を形にしたみたいな女の人だったのだから
ユキは ため息をついたのでした。
「ユキって名前なの?私」
「そうよ、今のところだけ」
今のところ、その言葉を言うと女の人は少し悲しそうな顔をします。
彼女が悲しそうな顔をすると、夜と白の世界は彼女を心配するように
ゆめらくようでした。その世界の様子に気付いた彼女は
世界に対してほほえみかけます。
「ユキという名前は、悲しいものなの?」
「いいえ。ユキという名前が悪いのではないわ。」
「ただ、それを夜楽という悪い人があなた達に与えてしまった」
「もらってないわ」
ユキは色んな疑問が頭にうがびました。
名前の意味から、『夜楽』という人から、
何もかもが分からないことばかりです。
その様子に気づいた女の人は申し訳なさそうに微笑みます。
「正確には、イアンが夜楽からもらってしまったの。」
「だけど、これからあなた達は一緒に行動するから同じようなものね」
「あなた『達』?」
「イアンにアンリ、そして今背中にいるベルのことよ」
今までなぜ気付かなかったのか、女の人の背中には
かわいらしい金髪の少女が眠っていました。
ユキは、そのベルという子を見ていると
どこか安心できるような心持になってきました。
この子となら、一緒にいるのも悪くないなと思ったところで
そうだ、とはたと気付きます。
「どこかに行かなきゃいけないの?」
その問いを受けて、女の人は花のように美しい笑みを
浮かべて、やさしく言葉を紡ぎます。
「これから、あなた達は 生まれる ために旅をするの」
2011.04.16