船がすすむ方向をみると、そこにはまた同じような
白い大地が夜の海に浮かんでいました。


たぶんそこが次の世界なんだろうと思っていたら、
ぐんぐんすすんでいた船がぴたりと止まってしまいます。

いぶかしんでベルが船の下を見ると、
白い大地をかこむようにして色とりどりの花がうかんでいて
船のゆく先をはばんでいたのでした。


しかし、問題はそれだけではなく、
白い大地とおんなじように真っ白な犬が
少年達をはばむようにたたずんでいたのです。

その犬はとても大きく、
少年達の背丈の2倍はあり、
おそいかかられたらひとたまりもなさそうでした。


犬はこちらを見て、はっきりと言います。



「強さを見せなさい」





「そうしたら、通してあげよう」




さすがのイアンもそれは無理そうだと
顔をしかめますが、アンリはふっと笑い、
花びらの上を渡ってゆきます。
犬はしっかりとアンリを見つめて、問いました。


「君は強いか」




「弱くはないかな」




犬は少しだけ目を大きく開いてアンリをじっと見つめます。
アンリはよっこいしょと花にこしかけ
犬を仰ぎみて言います。




「君は『強さを見せたら、通す』といった。」


「ということは、『通り抜けたものは強い』ということだね?」





犬は小さく「そうだ」と答えます。
その答えを聞くと、アンリはめずらしくまじめな顔になって
さとすように、やさしく犬に言葉をなげかけました。



「こちらは4人で、船もあるのに、君はひとり。」


「正直、ひどいことやずるがしこいことをすれば、たぶん通れる」



「でも、それは『強い』のかな。ぼくは心が弱い人がすることだと思う」


犬は目をぱちくりさせてアンリを見、
言い返すことなく彼の言葉を待っていました。
アンリはようやくここでふっと笑いました。



「今、ぼくはひとりで君と話しているよ」



「できれば君をたたくことなく、話し合いでどうにか通りたいと思う」



「それを見てくれると、うれしい」





アンリの言葉を聞き終えると、犬は
やさしそうな笑顔を浮かべて答えました。




「そうだな、君は強い」






「君はおもしろいから、ここにとどめておくのも悪くはないが」





「ここを通りたいなら、通してあげよう」





アンリが返事をする前に、後ろの方から
3人分の喜び合う声が聞こえてきて
アンリは苦笑したのでした。





2011.10.30